さしのみ

東大で法律学んでる傍ら、高齢化とその他諸々の本、論文の要約レビュー等をやってます。感想・ご意見等、時間の限り書いて寄越してください。

人間の性的欲求を進化心理学で解明するぜ【第三回 体目的の。。。】

リクエストをいただいたので、少し長めに書いてこうかなと思っとります

 

早速ですが、以下のような状況を想像してください。

あなたは大学生で、昼休みに自分の大学のキャンパス内を歩いています。授業も一通り終わって、徐々に日も傾いてきています。そんな中、可もなく不可もない容姿の異性が近づいてきて、こう言います。

「こんにちは、最近よく見かけるんだけど、あなたってすごく素敵ですね。今晩一緒に寝ない?」

さて、あなたはどう返答するでしょうか。丁寧に断る?ぶちギレてその場を立ち去る?それとも喜んでOK?

 

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上記の実験は1978年と1982年の2回、フロリダのとある大学で行われた社会心理学の実験でして、体目的の異性のアプローチに対して男女でどのような差があるか、ということを調べたもの。平均的な容姿の異性に突然「今夜一緒に御飯でもどう?」「今夜うちに来ない?」「今夜一緒に寝ない?」の3パターンで質問された場合、それぞれに対してどれぐらいの割合の学生がOKを出すかを調べたわけです。その結果、概ね女性よりも男性の方が突然の誘いに対してOKを出す割合が高いことが判明したわけです。

ちなみに、上記の「一緒に寝ない?Would you go to bed with me?」に対して、75%の男子学生がOKを出したのに対して、OKを出した女子学生は一人もいなかったとのこと。開放的なフロリダの風土もあるでしょうが、日本でも大まかな男女差は一緒でしょう。

 

この実験が好例ですが、体目的のSEXを考える際に基本となることは、女性よりも男性側に高い「一夜の恋」に対する需要があるということ。言い換えれば、男性は兎にも角にも「たくさんの異性と寝てみたい」という欲求が女性に比べて高く、短期的SEXにものすごい情熱を持っていること。事実、女性と比べて、生涯の経験人数の理想値、一日平均の自慰行為の回数、「自分は性欲が強いと思う」と答えた割合のいずれにおいても、男性は女性を上回っておりまして、更に、男性は、知り合ってからより短い時間で性交に移ろうとする傾向も高く、かつ、恋人に対する基準と比べて、体目的のSEXの際には著しく異性への要求水準を下げる、つまり誰でもよくなる傾向が世界的に確認されております。

これに関して、The Closing Time Effect、閉店間際効果とでも言いましょうか、という面白い心理バイアスが確認されています。端的に言うと、バーが閉店間際に近づくと、バーに残っている異性をより魅力的に感じる、という心理的傾向。研究者らが金曜日のバーの客に10点満点でその日のバーの異性の平均点を算出してもらうんですが、閉店が近づくにつれてその平均点が上がっていくわけです。直截に言えば、「点数の高い」異性というのは早々に相手を見つけてバーから出て行ってしまうはずだと考えると、この平均点の上昇は「残り物ばっかり」のバーの状況とは食い違うことになります。これに対して、研究者らは、「皆とにかくお持ち帰りがしたいから、閉店が近づいて焦るほど、異性に対するハードルを下げてるんだ」と推測し、The Closing Time Effectと名付けたわけですねー。しかも、大事な点は、この傾向は男女ともに見られたものの、男性により顕著に表れたということ。女性側がつけた平均点が5.0点か5.5点まで最終的に上昇した一方、男性側の採点は5.5点から6.5点まで上がったわけで、男がより必死になっていることが推察されます笑

 

一方の女性はというと、とかく短期的SEXには消極的。性的な妄想の頻度も男性よりも格段に低く、かつ「一夜の過ち」を後悔するのはほとんどが女性だという結果が出ております。もっとも、あくまでアンケートなんで、「こういう風に答えておかないと、後で困りそう」という文化的バイアスが働いて、実際よりも「貞淑ぶる」女性が多い可能性も捨てきれませんが、依然、男性比べて女性は体目的の成功に否定的といえるでしょう。

 

 

 

ここまで言うと、「なんか男はSEXのことばかり考えてて、女性が可哀そう!一晩限りのSEXは男の勝手だ!」という怒りの声が聞こえてきそう。ただ、これに対して、本の筆者は「男性が上記のような傾向をもっているということは、とにかくSEXがしたいと思うことに進化論的利点があったからであり、かつ、そうした男性の欲求にこたえて来た女性が一定数常に存在したことの証左だ!」と申しております。さて、どういうことなのか、詳しくみていきましょう。

 

まず、太古の昔から女性は複数の男性と同時に関係を持つことがよくあったということは、男女の体の仕組みから明らかだと、筆者は言っています。

まず、人間の男性の睾丸が他の霊長類に比べて大きいこと。筆者は体重比を参照しているんですが、体重における睾丸の重さの比率はゴリラが0.018、オランウータンが0.048なのに対して、人間は0.079だそう。睾丸が大きいほど、精子の量が増えるため、人間の比較的大きな睾丸は複数の男性間での競争があった結果だと解されるとのこと。

次に、精子の量の変動。男性は、パートナーとの性交の間隔が大きいほど、一回に射精する精子の量が増えるという実験結果があるようでして、毎日成功しているケースと比べて、最大2倍ほど量が増えるんだと。一介に射精する量が多いほど、女性の膣内に残留している他人の精子を押し出す量が増えるため、男性のこの傾向は生物学的に女性が複数の男性と成功する傾向にあったことの結果だと、筆者は主張しています。

さらに、女性のオーガズムの存在も、複数の相手との性向が常だったことの証左だと筆者は主張しております。男性はオーガズムで射精するため、「男性のオーガズム」というのは生物学的に理解しやすいんですが、「女性のオーガズム」っていったい何のためにあるんだろう、という問いは依然、生物学上の難問として残っています。それに対して、筆者は「女性のオーガズムは複数の男性から最も良い男性を選別するためにあるんだ」と声高に言うわけです。その背後には、女性がオーガズムを経験した場合、性交後に膣から押し出されてしまう精子の量が減るという事実があります。つまり、体の相性が良く女性がオーガズムを経験できるような男性の精子が自分の卵子とより高い確率で受精できるよう、女性はオーガズムによって必要な精子とそうでない精子とを選別しているというわけですな。一方で、男性の乳首と同じように、女性のオーガズムは進化上残った残留物に過ぎない、という意見も有力だそうで、あくまでこの説は本の筆者の見解に過ぎないんですが、何とも男性諸君には恐ろしい話ですね。

 

 

 

以上が、女性が複数の相手と成功してきたことの進化論的根拠になるわけですが、実際に、複数の相手とSEXすることは女性にとってどんなメリットがあるんでしょうか。ここから、ロマンチックのかけらもない話にはなりますが、興味ある方はどうぞ笑

 

まず、性行為を対価として、経済的・社会的援助を男性から受けることが最大のメリットのうちの一つといえるでしょう。例えば、原始社会において、食物が不足している時期に、ある一人の男性が獲物を携えて村に帰って来たとします。むらで待っていた女性の側からすれば、自分の生存、あるいは自分の子供の生存のためには、その男性の獲物を自分に分けてもらう必要があるわけです。もちろん男性は自分のパートナーと自分の子供に最初に獲物を分け与えるでしょうが、その余りは最も好条件を提示した他者へ与えられるはずです。そこで、前述のような男性における「色んな女性とSEXしたい」という大きな欲求を考えれば、女性側から見ればSEXを食べ物の対価として提供することは非常に有効な作戦といえるわけです。歴史的にも世界のどの文化においても「買春」が存在することが、男性の性的欲求に対して、女性側が経済的代価を求めてSEXを提供していることの証左といえるわけです。更に、第一回目のまとめで説明しましたが、女性は男性の富と権力を非常に高く評価する傾向があるんですが、この傾向は、女性が愛人を求める際に、さらに顕著になることが分かっています。つまり、女性にとって、SEXは経済的・社会的資源を男性から獲得するための手段だと言えるわけであります。

第二として、短期的性交を通じて、女性は男性のパートナーとしての価値をより正しく見極められると考えられます。SEXを通じて、男性がどれほど女性に気を配れるか、柔軟性があるか、我慢強いかが推測でき、かつそもそも「とりあえずヤレれば良いや」と思っているのか、長期的な関係を望んでいるのかも分かるわけです。昔、ダウンタウン松本と島田紳助の「松紳」という番組で紳助さんが提唱されていた面白い公式がありまして、男にとって「好き-ヤりたい=愛情」であり、しかも一回SEXしてみないと男はどれぐらい相手を愛しているのか自分でもわからない、ってんですね。これは女性にとって有意義でして、SEXの後にどれぐらい男の方があなたを気遣ってくれるかで、その人がどれほどあなたを「愛しているか」が分かるわけですな。

第三に、短期的性交は、女性にとってパートナーのバックアップを用意するために有効だと言えます。統計的に男性というのは女性よりも短命でして、かつ古代においては戦役で旦那が死んでしまうなんてことは今よりも多かったと言われています。更に、相手が経済的に落ちぶれて十分な資本を提供できなくなったり、DVなど女性に多大な不利益をもたらすこともあり得るわけです。その際には功利的にはすぐさま違う相手に乗り換えることが女性に自信にとってもその子供たちにとっても有益であって、そのためには継続的に他の男性と関係を持っていたほうが、乗換が早い、という理論。

第四に、短期的性交を提供することで、より良い遺伝子を持った子供を産めるかもしれないこと。これは男からしてみると背筋が凍る話ですが、生物学には"the sexy son hypothesis"という仮説がありまして、「より魅力的な男性と子供を設けることで、自分の子供がより魅力的になる確率が上がり、その結果、自分の遺伝子が残りやすくなるため、女性は魅力的な男性を求める」と言われています。現実に適応すれば、とにかく「いい男」の遺伝子を獲得することが女性の最大関心事であって、正直自分のパートナーとの間の子供であるかどうかは女性にすればどうでもいいわけで。パートナーには、安定的に資源を自分とその子供に提供してくれることを最も求めているからですね。そうしますと、多少魅力的でなくとも、誠実で経済・社会的に安定している男を旦那として選びつつ、不誠実そうだけども身体的にも精神的にもより魅力的な男性との間に旦那に隠れて子供を設けるのが最も戦略的な方法になるわけです。これは二つの科学的根拠がありまして、まず、女性は排卵期になるとより肉体的に「男性的な」男性を好む傾向が強くなります。つまり、マッチョで声が低く、対称性のある男性ですね。更に、男性っぽさの最大の要因の一つたる男性ホルモン、テストステロンは、それが多いほど、男性をムキムキにして声も低くするんですが、一方で性欲や権力志向も同時に高めるので、男性を不誠実にもしがちなんですなー。

 

 

まとめますと、一般に一晩限りのセックスという話になると「男性が女性を搾取している」というようなイメージが強いと思うんですが、もちろんその側面は大いにある一方で、女性が意識的に男性を利用する余地も多分に残されているとも言えるわけであります。なんせ、女性の売り手市場になっているわけですからねー。

One Night Standにおける、より多くの相手を引き付けるための男女別の戦略は、

男:長期的パートナー探しと同様に、金と権力を手に入れつつ、体を鍛えていく

女:「ヤリマン」と言われないよう注意しながら、SEXさせてくれそうな雰囲気を出す

って感じでしょうか笑。

もっとも、あくまで進化論をふまえて説明できる範囲でしかないですし、マズロー欲求段階説でいうところの高次の欲求に一切立ち入っていない説明なんで、実際の方法はいろいろあるでしょうけれど。それについてもいつか時間があればまとめたいと思っておりますー。

 

本書では、「同性愛ではどうなん?」とか、男女の戦略が変わる具体的状況だとか、その他カジュアル・セックスを説明する理論だとか、今回のまとめで扱っていない点もたくさん掲載されているので、ご関心の方は是非。

 

The Evolution of Desire: Strategies of Human Mating

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それと過去記事も是非笑

 

naoshiaut.hatenablog.com

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終わり