さしのみ

東大で法律学んでる傍ら、高齢化とその他諸々の本、論文の要約レビュー等をやってます。感想・ご意見等、時間の限り書いて寄越してください。

テスト前の緊張にどう立ち向かうか、という話

歳が変わりまして、いよいよテストの季節になってまいりました。中学校受験にはじまり、年の初めというのは常に大事なテストが目白押しでして、入学試験、期末試験、センター試験と、学生を困らせるイベントが盛りだくさんって具合なんですな。

僕個人は筆記試験で緊張することはほとんどないんですが、やはり口頭試験だったり、スピーチなど発表を人前でせにゃならかったりすると、多少なりとも緊張するわけでして、色々緊張や不安に対処する術を探しておりまして。今回は多少なりとも科学的コンセンサスが取れている不安対処法をいくつか紹介できればな、と考えております。

 

 

何よりもまず、不安についての研究を考えるうえで、2つ重要な点がございます。

まず、不安を感じる度合い、というものは個人差が非常に大きいんですね。これは心理学で多用されるBIG 5という心理傾向のうち、「神経症傾向」と呼ばれる性質と関わっておりまして、しかも神経症傾向は遺伝的要因で各人のスタートラインが大きく変わってくるんですな。僕はもとより不安とか恐怖とかを感じにくいタイプでして、大自然の中だったら21になる前に死んでそうなんですが、一方、常に不安がちで胃薬が欠かせない、なんて友人もいるわけです。もっとも、この神経症傾向っていうのは、BIG5のうち最も後天的に変えやすい性質だともいわれております。幾つか、不安症を和らげる方法を以下で紹介しますので、ご参照のほど。

次に、不安傾向は変えられと申したんですが、プラシーボの効果も非常に大きいんですね。人間の性格ってのは不定形で繊細なので、どんな要因で性格が変わったのか特定しづらいわけであります。そんなわけで、科学的な定説!ってのは見当たらないんですが、僕個人として正しいと思うモノのみ紹介しますんで、その辺は良しなに。

 

 

短期的対策 ー緊張をその場で解決ー

一時期、TEDなんかでPower Poseなんてのが持て囃されてましたが、近年は生みの親であるハーバードのCuddy教授自身がその効果を疑問視し始めちゃった始末。民間療法とかだとツボだとか何とかありますが、少なくとも僕は良く分かんないんで、今回ご紹介する即席の方法は2つ、「不安の再解釈」、「3人称で自分を励ます」ですね。

【不安の再解釈】

不安を感じるとき、「ああ、不安なんか感じて緊張してたら失敗するんじゃ」なんて思って、ますます悪循環にハマっていくんですよね。これは、色々原因はあるとは思うんですが、「不安=悪いモン」という先入観が邪魔しているケースが多いわけです。

実際、色々調査を見てみますと、不安はそう悪いモンじゃないってことが分かってきたわけでございます。順に見ていきましょう。

①『テスト前に悪夢を見る学生の方が成績が良い』

笑っちゃうような研究ですが、テスト前にテストで失敗する悪夢を見た学生ほど、いい結果を収める傾向にあったらしい。研究者らは、悪夢を見ることで、現実の危機感を高めて学生をより準備に向かわせたり、逆に夢のなかほど現実の状況が悪くないことに気づくことで精神的余裕が生まれたり、など色々な解釈をしております。個人的にテストの夢は見たことないんですが、テストの悪夢を見るってことは、それだけ気にして勉強してきたってことなんかな、と思うんで、これからは悪夢を見れるよう頑張ります笑

 

②『不安の感情を正確に把握している人ほど、仕事や学業でいい結果を収めている』

皆さんの周りにも、追い込まれるとやたら元気になっていい結果を収める人と、追い込まれたらもうそこでお終いになっちゃう人とがいるかと思うんですが、今回の研究はそうした人たちの違いって何だろう、ということを調べてくれております。まず大事な点は、自分の不安感情を正確に把握できている人ほど、自分の不安をモチベーション向上に使おうという意識が強いということ。自分が何に対して不安なのか、どれくらい不安なのかってことをより書斎に掘り下げているってことですね。孫氏の言う通り、「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」って具合でして、まずは自分の不安のハンドルを握ろうって話ですな。不安との向き合い方については「マインドフルネス」の項で扱います。更にですね、不安感情を正確に把握している人ほど、学業でも仕事でもいい結果を収めているってことが分かったわけです。くよくよしてる時間がない分、集中力も時間も投資で来てるんでしょうから、これは当然でしょうな。

 

③『不安感は興奮しているのと同じだと思え!という研究』

「オラ、ワクワクしてきたぞ」は悟空の代名詞ともいえる台詞ですが、心理学的にも悟空のマインドセットはいい結果につながるんじゃないっていうハーバード・ビジネススクールからの研究。どういうことかといいますと、不安感を抱いたときに、「今自分は不安を感じていると思っているけど、実は興奮してるんだ!」と自分に言い聞かせるよう指示されたグループは、不安を不安のまま捉えているグループに比べてパフォーマンスが上がることが分かったんですな。実際、不安を感じているときも、興奮しているときも、瞳孔の拡大や心拍の上昇、手足の発汗等、肉体的な反応は似ておりまして、不安と興奮って同じことなんだと解釈しようって話。スピーチの前やテスト直前には、「ああ不安だなぁ」って思うんでなく、「オラ、ワクワクしてきたぞ!」とつぶやいていきましょう笑

 

④『不安を感じやすい人ほど、決断のクオリティが高い、という研究』

 ここでいうクオリティの高さというのは、損失回避がうまい、ということ。意思決定の局面では、もちろんどれほど多くの成果が見込まれるか、という点も重要な評価軸ですが、同様に、いかに大きな損失を回避するかということも大切だと言えます。サイコパスは、不安を感じにくいんで、これとは真逆なんでしょうなぁ。

 

以上、不安には良い側面があるぜ、ってことを知ることで不安を再解釈して、負の連鎖を断ち切りましょう。以前ご紹介したSilver Lining Theoryなんかと似た方策ですねー。

 

naoshiaut.hatenablog.com

 

 

【3人称で自分を励ます】

言葉の使い方を変えるだけで精神状態が変わるのは、以前にもご紹介したように、個人的な最大関心事の一つなんですが、今回は「人称を変えるだけで、不安の軽減効果が激しく変わるぜ」という研究

陸上競技なんかでスタート前に選手が一人でブツブツつぶやいている姿なんかをたまに見かけますが、その時に「俺は絶対にやれるさ」というのと「(自分の名前)は絶対にやれるさ」というのでは、どちらが良いパフォーマンスにつながるんでしょうか。今回の論文は6つの実験をまとめたものでして、結果から言いますと、自分の名前を使ったり二人称を使ったりした被験者は、一人称で自分を励ましたグループに比べて、第一印象も良く、かつスピーチもうまくいくことが分かりました。

つまり、緊張する本番前には、自分を他人の視点から励ますのが良い、ということ。前述の「不安=興奮」の枠組みと合わせると、「(自分の名前)はワクワクしてんぞ!」ってな感じでやるのが最も効果的かも笑

 

 

以上、すぐできる不安対策法をご紹介しました。

これ以外にも、マインドフルネスや運動を取り入れる方法はいくつかあるんですが、今回はこの辺で。今後、その他の方法や、また勉強法などについてもまとめられると良いかなと思っております。

終わり。