さしのみ

東大で法律学んでる傍ら、高齢化とその他諸々の本、論文の要約レビュー等をやってます。感想・ご意見等、時間の限り書いて寄越してください。

象徴天皇と神話

NetflixのCrownってシリーズは、イギリスのエリザベス2世陛下の若かりし頃を扱っておりまして、同じ王室を頂く国の出身者として考えさせられるところも多いわけです。物語の冒頭、若き女王が民主主義の時代における王室の意義について葛藤していると、女王の祖母のメアリー妃はこう答えます。

 Monarchy is God's sacred mission to grace and dignify the earth. To give an ordinary people an ideal to strive towards, an example of nobility and duty to raise them in their wretched lives. Monrchy is a calling from God. 

 

 王室とは、この地上の威儀を正し、祝福するため、神によって与えられた神聖なる使命なのです。市井の人々に、目指すべき理想を、悲惨な日常から人々を救い上げる高潔さと義務との規範を与えることが、王室の意義なのです。王室は神の与え給うた天命なのです。

(Crown, Ep4 "The Act of God"より引用。日本語訳は筆者によるもの)

 

以上で示される見方は、もちろんキリスト教的天命観は別にして、日本の皇室を考えるうえでも大切な示唆を与えてくれているんではないかと。

神話学者のジョーゼフ・キャンベルは、人生の局面において如何にふるまうべきか、について神話が持ち得る教化機能を見直すべきだ、と主張しています(ジョーゼフ・キャンベル「神話の力」早川書房)。神話の多くは、人々が生涯で経験する普遍的なテーマを扱っている場合がほとんどであり、神話のストーリーの中で登場人物が如何に困難を乗り越えるかを知ることで、人々は自身の人生における困難の対処法を学ぶということ。

脱魔術化された現代社会において、数少ない残された「神話」が、今上天皇皇后両陛下の御二人なんではないかと僕は考えています。もちろん、今上陛下が「神」だ言いたいわけでは決してなく、「神武以来の万世一系」に当たるかどうかはココでは一切問題ではありません。むしろ、戦後に象徴天皇制が導入され、平成の世において今上天皇皇后両陛下が構築された「天皇像」は、その影響の及ぶ範囲の人間に対して、見習うべき一つの模範、一つの概念として作用しているのではないかと思う、ということで。

 

身の上を申し上げると、幼少期の僕の面倒を見てくれたのは主に祖母だったんですが、その祖母が今上陛下と同い年であり、日ごろから一人の人間として高齢をおして公務に励む陛下に感心していたこともあり、僕個人からしてみると陛下は「無私」「慈愛」の象徴として、まるで第三の祖父母のような親近感を抱く対象であったわけです。

 

歴史的・法的・政治的な、天皇制をめぐる議論はそれとしては重要でしょうが、平成の節目に当たり、個人が天皇制に如何様な感情を抱き、どのような役割を期待するのか、という議論も見直されても良いんではないか、と思うこの頃でした。

 

神話の力 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

神話の力 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

 

終わり