さしのみ

東大で法律学んでる傍ら、高齢化とその他諸々の本、論文の要約レビュー等をやってます。感想・ご意見等、時間の限り書いて寄越してください。

将来予測の不確実性【スウェーデン介護産業における顧客のニーズ】

郵政民営化なんてのが最も印象的ですが、最近の水道民営化案で揺れる日本と同じく、高福祉高負担国家スウェーデンでも民営化は最大の政策上の関心の一つであります。中でも、介護産業は、元来政府が税金で運営していた業界であるため、その民営化が非常な注目を集めているわけで。

今回は、その議論状況をまとめてくれた論文を紹介したいと思います。

 

民営化推進派の論調は概ね以下の様

第一に、将来的に介護サービスの量的質的な需要は伸びる。人口は増え続け、かつ高齢化も同時に進行している。さらに、介護利用予備軍の戦後世代は、今の戦前生まれの高齢者に比べて、より多くのサービスを必要とすると考えられる。介護サービスは労働集約的であり生産性の向上が難しく、需要の拡大にキャッチアップするに足るだけの技術革新も見込まれない。

第二に、以上の需要の拡大速度は、税収の増加を大幅に上まわっている。しかも、現代のグローバリゼーションの圧力の中、企業や個人の海外移転がますます容易になる中で、増税は、資本の流出に拍車をかけることになりかねないため、現実的ではない。

以上をふまえると、政府の歳出額を増やさないまま、成長する介護ニーズに応えなければならず、そのためには介護産業の民営化が不可欠である。

 

これに関して、主な提唱者、どういった利益が背景にあるのか、どういった方法で提唱されているのか、という視点で分析し、かつ反対派についても紹介しております。

僕が注目したいのは、「将来求められるニーズは変わる」という前提。民営化推進派はニーズの多様化を力強く説いているわけなんですが、論者らはスウェーデンの全世代が現時点での公的介護サービスへの高い信頼感を抱いており、介護サービスを目的とした増税にかねがね肯定的だという反証データを持ち出してくるんですね。

事の成否は置いて、僕が感じるのは、ここに政治の難しさがあるなぁ、と。あらゆる政治は、民主主義のこと時代、有権者に対して責任を負っているわけであります。更に、事実上、専門家として有権者から一定の自立性を以て、未来予測という業務にあたらなければなりません。

ブラックスワン』や『反脆弱性』などナシーム・タレブの統計学的視点や、カーネマンらのパースペクティブ理論を一度知ってしまうと、人間の未来予測能力に悲観的になってしまうんですが。。。議論の根底にある空しさを抱きつつ、政策議論を学んでいかなきゃならないわけですねー。