さしのみ

東大で法律学んでる傍ら、高齢化とその他諸々の本、論文の要約レビュー等をやってます。感想・ご意見等、時間の限り書いて寄越してください。

メタ認知瞑想で共感力が高まるよ、という研究

「汝自身を知れ」は「そだねー」もびっくりの、世代と地域を超えた流行語大賞なわけですが、この格言を冠した論文がドイツ、マックスプランク研究所の研究者らから発表されました。念のためですが、「そだねー」ではなく、「汝自身を知れ」の方です。

 

近年、アメリカを中心に瞑想の効用が注目され、マインドフルネスだのなんだのと様々な概念、方法が飛び交っておりますが、その中の一つ、メタ認知瞑想が他者への共感能力を高めてくれるんでは?という研究が出てまいりました。

 

今回取り上げられた瞑想方法は、自分の思考を観察し傾向ごとに分類していく方法でPerspective-takingなんて呼ばれ方をしております。日本語訳分かんないので、そのまんまですが笑

実験では、被験者に合宿等を織り交ぜながら3か月間瞑想を継続してもらいつつ、被験者同士で自身の経験を語りあう別のセッションにも参加してもらったようです。これだけ聞くと、新興宗教の会合の様ですが(汗)。研究者らはその3か月間の前後で、被験者の共感能力がどれぐらい向上したかを計測したわけです。

瞑想の方法は至って簡単で、一日30分座位で目を閉じながら自分の思考を観察してもらいつつ、そこで観察した思考を「他人について/自分について」「過去について/未来について」「ポジティブか/ネガティブか」の3つの軸で分類し、それぞれの思考に名前をさせたわけです。例えば、僕の場合、細かな英語のミスをしてしまったことにイライラして自分を責めているようなときは、「自分について」「過去について」「ネガティブ」というふうに分類して、その思考を「完璧主義ドリルサージェント」と名付けました。この思考の類型はインナーパーソナリティと呼ばれ、人の心は複数のインナーパーソナリティで出来ると考えられています。

その後、相互セッションでは、自分が見つけたインナーパーソナリティに基づいて最近の出来事を語ってもらい、聞き手は相手がどのインナーパーソナリティで話をしているのか推測するという、半分ゲームのようなことをしてもらいました。これを通じて、話している側は、一つのインナーパーソナリティで一貫して話をしなければならないので、普段では考えないような自分の経験の捉え方ができるなんてことになるんですね。例えば、コンビニで態度の悪い店員さんに会ったとき、普段なら「なんやコイツ、むかつくのう」ぐらいで終わりますが、「慈悲深い母親」なんて見方で考え直すと店員さんには何か嫌なことがあったんじゃないか、なんてことにも考えが及ぶわけです。こうすることで、少しずつ他者の理解が広がりと深まりを見せていくんですね。また、相手の話を聞いている側は、相手がどんなパーソナリティで話しているかを探る過程で、相手の考え方を取り込むのがうまくなっていくわけです。

 

以上、3か月の実験を経て、研究者らは以下の三つの結論を導き出します。

第一に、本人が見つけたインナーパーソナリティのうち、ポジティブとネガティブの割合は、研究者らが別で行った心理分析の結果として判明したポジティブとネガティブとの割合とおおむね一致しました。言い換えれば、心理テストの結果、ポジティブな性質が多いと判断された人は、その結果を知らずとも、ポジティブな自分の因果関係をネガティブよりも多く見つける傾向があり、その逆もしかり、ということですね。

第二に、より多くのインナーパーソナリティを見つけた人ほど、より共感能力の向上が顕著でした。これは、画像や映像の画素数と同じで、細かく分類できているほど、相手の心情の機微を把握しやすくなった、ということかもしれませんね。

第三に、ネガティブなインナーパーソナリティを多く見つけた人ほど、より共感能力の向上が顕著でした。これは意外な結果かもしれませんが、研究者らは、ネガティブな自分の側面と向き合い分析することは辛く根気のいるものであり、その分、ネガティブな側面をより分析できた被験者は真摯に自分と向き合ったということになるため、その結果、より広いレンジで心情を理解できるようになったのではないか、と推測しています。臨床心理の世界でも、自分のネガティブな側面と向き合い、それを客観的に分析することは精神病患者に広く適用される療法だそうで、メンタルの向上に効くようです。

 

この研究に関して、所感は以下の2つ。

自分と向き合って自分の気持ちを分析すること、特にネガティブな部分を受け止めて腑分けすることで、他者への共感力が高まるとのことですが、その場合、ビッグファイブでいう外向性や神経症傾向との関連はあるんでしょうかねぇ。内向的で神経症傾向の高い人は、少なくとも僕の友人の範囲では、自身の負の側面と良く戦っているように思えますし、外向的で神経症傾向の低い人はあまり自分の悪いところにかかづらっているようにも思えないので、陰キャほど人の心が分かり、陽キャほど無神経っていう皮肉な仮説が立つんですが笑

加えて、サイコパスに自身のインナーパーソナリティを分析させたら、そういう結果になるんでしょうか。サイコパシー研究者のケヴィン・ダットン白紙に依れば、サイコパスの特徴の一つとしては、感情の欠如、特に恐怖や心配といった負の感情の異常な不感が挙げられるとのことなので、ネガティブなインナーパーソナリティがほとんど挙がってこないんじゃないかなと思っているわけです。そうなった場合、特にファンクショナル・サイコパスと呼ばれる社会的に成功したサイコパスは、どのようにして他人の気持ちを読めるようになったのか、という点についても興味がありますねー。

 

The Wisdom of Psychopaths

The Wisdom of Psychopaths

 

 

いずれにせよ、「他人がどういう気持ちなのか」ってのは、少なくとも内向的な僕の人生の中では、最大の関心事のうちの一つなので、瞑想で共感力が高まるよ、なんて言われた日にゃ俄然、瞑想へのモチベーションが高まりました笑

終わり。